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3人の受験戦争

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3人の受験戦争   玉生洋一

 私たちはバカです。
 3人揃って同じくらいバカなんです。
 なぜなら、私たちは3つ子だったから。

 バカにも受験戦争はやってくるんです。
「このままじゃどこにも合格できないわ」
「今から必死に勉強してもダメかな?」
「ムリ! 時間がなさ過ぎるもの」
「……それなら分担したらいいんじゃない?」
「なるほど。一教科だけなら覚えられるわ!」
「それでいきましょう!!」

 ……と言うわけで、私たちは猛勉強を始めました。
 私、長女の一美は国語。次女の二葉は英語。三女の三佳子は歴史を必死になって勉強したんです。
 その甲斐があって、3人ともそれぞれの教科だけならば合格点を取れるようになりました。

「やったね!」「やったわ!」「さぁ受験よ!」

 私たちは3人とも、共通の3つの学校に受験届を出しました。
 そう。教科ごとに入れ替わって3教科とも合格点をとろうという計画。
 私たちは親も間違うほど、そっくりの顔なんです。他の2人は落ちることになるけど、全部で3校合格すれば問題ないってわけ。

 最初の受験の日。
 1時間目の英語の試験が終わった後、私はドキドキしながら二葉と席を交替しました。
 3時間目は二葉と三佳子が入れ替わります。試験中、試験官の視線が何度も突き刺さったような気がしました。でも、注意されることもなく、無事に試験終了のチャイムは鳴ったんです。

「うまくいったわね!」「これなら絶対合格よ!」「さあ、次も頑張りましょう!」

 2校目の受験も無事に終わりました。
 そして、3校目の受験日の朝……。

「大変よ、一美!」
「どうしたの、三佳子」
「二葉が熱を出したのよ。とても試験を受けられる状態じゃないわ!」
「なんですって!」

「ごめんなさい……」
 二葉はベッドの上で、真っ赤な顔をしながらうんうんと唸っていました。これではムリをして試験会場に行ったとしても、入れ替わったりしたらすぐにバレちゃいます。
「どうしてくれるのよ〜!」
 声をあげて泣き崩れたのは三佳子でした。今までに受けた2校は私と二葉の志望校。今日は三佳子の受験日だったのです。
「あんたのせいで私だけ浪人よォ〜!」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
 号泣しながら二葉に詰め寄る三佳子に対し、二葉も泣きながらただ謝ることしかできません。

 私はそんな2人の肩をそっと抱き寄せました。
「……安心なさい。2人とも大学に行けばいいわ。私が浪人するから」
「えッ」「どうして……!?」泣きやんだ2人は、全く同じ驚きの顔でこちらを見ています。
「まったく顔が同じなんだもの。三佳子、あんたが私の合格した学校に行けばいいわ」
「ダメよ、それなら責任をとってあたしが……!」ベッドから乗り出した二葉を、私は制しました。
「いいのよ……。一応これでも長女だもの。妹のためならこのくらい……」
「一美……!!」「お姉さん〜!」

 きつく抱き合いながら、私たちは号泣しました。
「……ホントにいいの?」三佳子が申し訳なさそうな表情で私を見上げます。
 私はやさしく微笑みながら、ゆっくりとうなずきました。「……さぁ、泣いてばかりじゃダメよ、三佳子。今日からあんたが一美なんだから!」

 そして私はもう一美じゃない。妹たちのことを気にする義務はないのです! 別に大学なんてどうでもいいわ。毎日のんびりと遊んで暮らすことにしようかな。
 そんなことで将来はどうするのかって?
 そうねぇ……。4年後くらいが、また交替の時期かもね。
 だから、一美と二葉には頑張ってもらって、いいところに就職してもらわなくっちゃ!

 それとも、交替は結婚の時期の方がいいかしら?
 まぁいいわ。前からちょっと三佳子の彼が気になってたところだし……。

 ともかく、こういった経緯で私は10年ぶりに三佳子に戻ったのです。






評価

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作者からひとこと

 双子以上の方、正直にどうぞ。試験の時、似たようなことをやったことあるでしょう?
 これから大学に行かれる方。一美と三佳子のどちらが得な生き方か、考えてみることをオススメします。時は金なり。もし大学卒の肩書だけが欲しいならば、大金を積んででも買った方がどんなに得なことか。
(2000/4/5)

初出

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