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トリプルヘッダー

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トリプルヘッダー   玉生洋一

「ううむ……」
 あるトレーニングジムの休憩室。溜息を漏らしていた男に、顔見知りが話しかけた。
「チャンピオン! どうしたんです、深刻そうな顔をして。試合は1週間後でしょ。楽しみにしてます。がんばって下さいね」
「そのことなんだが……」
「なんです? 相手は格下の選手じゃありありませんか。十中八九勝てるでしょう。それとも体調でも悪いんですか……?」
「いや、体はすこぶる健康。勝つ自信もある。ただ奴め、なめた真似をしおって……」
「なめた真似?」
「ああ。今日の新聞に出てるよ」男はそばにあったスポーツ紙を差し出した。
「何々? 『サンダー大津・ダブルヘッダーを発表』……!?」
「同じ日にもう1試合やってから、おれとタイトル戦を闘うんだとよ。……なめてるだろう? これじゃ、おれが勝っても『2試合目だったから』とか何とか言われちまう」
「ハハァ……。それでやる気をなくされているわけですか」
「そういうことだ。まったくイヤになるよ」
「対抗して、あなたももう1試合やるっていうのはどうです? それなら同条件になりますよ」
「それも考えたさ。でも『あっちの1試合目の相手は弱い選手だった』とケチをつけられたらおしまいだし……」
「そうですねぇ……」
「ううむ……」
「……ではいっそのこと、トリプルヘッダーにするっていうのはどうです? 2試合やってから勝ったなら、何の文句も言われようがない」
「なるほど。確かにそうだが……。1日で3試合というのはさすがに……」
「大丈夫。……これをどうぞ」男はあたりを見回して誰もいないのを確かめると、チャンピオンにそっと耳打ちした。手には2つの小袋。
「これは……!?」
「試合ごとに服用して下さい。強力な薬です。今までのダメージがゼロになりますよ」
「しかし……、チャンピオンとして、そういう汚い真似はちょっと……」
「大丈夫。誰もが皆やっていることですよ」
 チャンピオンはしばらく躊躇していたが、ニヤリと笑うと小袋を受け取った。「そうだな。きれい事を言っていても仕方がないか。わはははははは」
「そうです。世の中汚いもんですよ。いひひひひひひひひひひひひひひひ」
 部屋の中はふたりの高らかな笑い声に包まれた。

 試合後の会場は熱狂に包まれていた。
「だいたい1日に3試合もやろうってのがなめてるんですよ!!」
 なんなく勝利を勝ち取った新チャンピオンのマイクアピールに、観客たちの大歓声が飛ぶ。
 控室では、記者達が元チャンピオンを取り囲んでいた。
「敗因はなんです? やはりトリプルヘッダーに無理があったんでしょうか」
「いや、汚い話なんだが……」
 数分前まで『全日本大食い王』だった男は、憔悴しきった表情で答えた。
「げ……、下剤が効かなかった……」






評価

面白かった→●

作者からひとこと

 30日に東京ドームで行われる「PRIDEグランプリ」というトーナメントに出場する「アレクサンダー大塚」という人は、本当にその前にもう1試合やるのです。しかし、彼は格闘技をなめているわけではありません(多分)。「1日に2試合やっても勝てる男」になりたいだけなのです。格闘技好きもそうでない人も、彼の試合に要注目!
 ところで、小学生にとって「学校のトイレで大をする」ことは、今も昔も大変勇気のいる行動だそうです。「誰もが皆やっていること」をするだけなのに、なぜなんでしょうねぇ。
(2000/1/28)

 アレクサンダー大塚選手は残念ながら判定で負けてしまいました。勝利したボブチャンチン選手は、大塚選手の1試合目の会場に姿を見せてマイクアピールをしたそうです。やっぱり、気になったんでしょうか。
(2000/2/4)

初出

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