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バレンタイン・ジャッジ

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バレンタイン・ジャッジ   玉生洋一

「どうしたんだ? 浮かない顔して」
 うちのクラスの修平が窓際でボーっとしていたので、おれは何気なく声をかけてみた。
「いや……、あのさ。今日ってバレンタインじゃん」
「ああ」
「実はさ。クラスの片倉直子からチョコもらったんだけど、義理チョコなのか本命チョコなのか、どうもハッキリしないんだ」
「なるほど。義理なのにわざわざ返事したりしたら笑いもんだしね。よし、おれに見せてみな」
「これだよ」
 修平が差し出した手の上に載っていたのは、300 円ほどで買えるような小さなチョコだった。
 おれはニヤリと笑うと即座に断定した。「修平。……これは本命チョコだよ」
「ホント? やっぱり! 実はおれもそうだと思ってたんだ。さっそくOKの返事をしてくるよ。サンキュー!」
 修平は小躍りしながら教室を出ていった。ふふふ、単純なヤツだ。

「どうした? ニヤニヤとしまらない顔しちゃって」
 修平と入れ替わりで教室に入ってきたのは、健太だった。
 おれは顔面を引き締めると言った。「別にニヤニヤなんかしてないさ。どうした?」
「実はお前に相談に乗ってもらいたいことがあってさ。今日ってバレンタインだろ?」
「ああ」
「川崎みよ子からチョコもらったんだけどさ。義理なのか本命なのかハッキリしないんだ。これなんだけど……」
 健太が差し出した両手には、豪華な箱に入った、いかにも高級そうなチョコレートが握られていた。
 おれはまたニヤリと笑うと、即座に言った。「健太。……これは義理チョコだよ」
「そうかぁ。……まぁそうだよな。『あいつおれに気があったのか』って一瞬思ったけど、まぁそんなわけないもんな。サンキュー」
 健太は頭をぽりぽりとかきながら教室を出ていった。
 ふふふふふふ。しかし、パッとしないあいつにあんな豪華なチョコをあげるとはね。女心は分からんもんだ。

 おれは含み笑いをしながら、教室の隅にある自分の机に腰を下ろした。机の中に入っていたものを、一気に机の上にぶちまける。それは数十個のチョコレートだった。
「ふふふふふふふふ。嬉しいけど、お返しが大変なんだよなぁ」
 そんなことを言いつつチョコを眺めてニヤニヤしていると、教室のドアが勢いよく開いた。
 修平だった。顔を真っ赤に腫らし、肩を震わせている。
 修平の表情にドキリとしたおれは、思わず椅子から立ち上がった。
「どうした? 直子のところに行ったんじゃなかったのか?」
「……行ったさ……」
「う、うまくいかなかったのか?」
 修平はしばらくの間おれの目をじっと見つめたかと思うと、にま〜っと笑った。
「うまくいったよ! おれたち、コイビトになることになったんだ」
 見るとドアの陰からは、恥ずかしそうな顔をした直子がその小さな体をのぞかせている。
「よかったな、2人とも!」おれがそう声をかけると、修平と直子は大きくうなずいた。
「うん! ありがとう、先生!」
 ふふふふふふ。単純でかわいいヤツらだ。仲良く手を繋いで教室を走り出ていった小さな恋人たちを見送りながら、おれは机の上のチョコをひとつ手に取った。
 10円で買えるパラソルチョコ。おれが片倉直子からもらった義理チョコだ。

「あら、今年もたくさんチョコをもらえてご満悦のようね。そのために幼稚園の先生になったのかしら?」
 そう言ってひょっこり顔を出したのは、同僚の川崎みよ子だ。
「バカ! そんなわけないだろ。それよりお前、健太のヤツにチョコあげたんだってな」
「なぁに、ヤキモチ焼いてるの? ただの義理チョコよ。健太さんは職場の同僚なんだもの、当然でしょ」
「……おれはもらってないぞ」
「あなたのは家にあるわよ。手作りチョコ、頑張って作ったんだから。さぁ、食べたかったら早く帰りましょ!」
「バカ! 人に見られるだろ。おれたちの関係は秘密なんだぞ」腕に抱きついてきたみよ子を振りほどこうとしながらも、おれの顔はゆるみっぱなしだった。
 ふふふふふ……。おれも修平と同じで単純だよなぁ。 






評価

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作者からひとこと

 男ってチョコをもらっただけ幸せになってしまう単純な生き物です。それひとつで愛や感謝の気持ちが伝わるのだから、安いもんですよね。
 久々に「いい話」を書いたので、書いた方としてもちょこっと気分がいいです。
(2000/2/21)

初出

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