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愛の冬ごもり

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愛の冬ごもり   玉生洋一

 冷凍食品はよく食べていたが、まさか自分が冷凍人間になるとは思ってもみなかった。
 僕は10才年下の彼女のために、人工冬眠をすることにしたのだ。
 22才の僕に12才の彼女。二人に対する世間の風はあまりにも冷たすぎた。だが、僕達は真剣だった。そして、僕が少しの間冬眠しさえすれば、二人は幸せになれるのだ。

 冬眠装置は自分で用意することにした。僕は大学で、その方面の研究をしていたのである。
 自宅の一室を片づけた僕は、慎重に装置を組み立てていった。何しろ、入るのは僕自身なのだ。万が一の事故があってはならない。
 一番悩んだのは、起きるためのタイマーをどう設置するかである。
 普通の時計では、歯車が止まってしまう危険性がある。コンピュータを使っても2000年問題のようなトラブルが起きないとも限らない。最新の機器ほど、不慮の事態には弱いものなのだ。
 そこで、僕はきわめて原始的な装置・砂時計をタイマーに使用することにした。何も正確に10年で目覚める必要はないのだ。これならば多少の誤差はあれど、故障する危険性は少ないだろう。

 きっかり10年で砂が落ちきるように砂時計をセットすると、僕は冬眠装置の中に入りスイッチを押した。父と母宛に「装置をどこに移動しても構わないが、絶対に水平にしておくように」と書き置きを残して。
 冬眠することは彼女には内緒である。そんなことをうちあければ、寂しがって「やめて」と言うに決まっているからだ。大丈夫。彼女の気持ちはずっと変わるものか。
 こうして僕は10年の眠りについた。

 僕が目覚めたとき、そこにはヨボヨボの老人になった父と母の姿があった。
 しかし、10年にしてはあまりにも年をとりすぎている。
「ど、どうしたの、二人とも?」
「お前は……60年もの間、眠っていたんだよ」
「なんだって!」
 どうしてそんなに長く!? ああ、それではもう彼女は72才に……。
 絶望感に打ちのめされた重い足取りで屋外に出たつもりだったが、なぜか僕の足は軽やかに宙を踊っていた。
 目の前の夜空には、青く美しい天体が輝いている。
 まさか、ここは……重力が6分の1だという……。
 母親がポツリと言った。「開拓資金が下りるっていうんで月に引っ越してきたんだけど、まずかったかねぇ……?」






評価

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作者からひとこと

 もし彼女の愛がまだ変わっていなかったら……ホラーですね。
 月で砂時計が6分の1の速さで動作するのかは知りませんが、まぁ、穴が大き目ならば、間違いはないでしょう。

(2000/7/27)

初出

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