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奇跡の一打

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奇跡の一打   玉生洋一

「どうだ? 一打千円でいっちょニギらないか?」
 思えばそう言われた時にやめておけばよかったのだ。
 丸山はゴルフが嫌いではなかったが、金がないこともあってラウンドは月に一回あるかどうか。それに対し、他の三人は毎週のようにコースをまわっているのだ。
 勝てるわけがなかった。
 案の定、15ホール目を終える頃には、丸山の負けは30万円に達していた。ビリが上位三人に支払うというルールだったのである。丸山はカモにされたのだ。
 30万といえば、丸山の一月の給料を遥かに上回る額だ。丸山はパニックを起こし、今にも泣き出しそうになった。なんでおれは今日ゴルフになど来てしまったんだろう。このままでは今月の家賃が払えないし、実家に仕送りをすることもできない。ああ……。
 とにかく、残りのホールを少しでも少ない打数であがって被害を最小限にくい止めなければ。丸山は16番ホールのティショットを打った。
「残念〜〜〜OB〜〜〜」「ヒャッハハハ。笑いが止まらないぜ」「これで6千円加算と。さぁ、早く打ち直しを打ってくれよ」
 丸山はガックリと膝を落とした。こんな勝負投げ出して帰ってしまいたいところだったが、気の弱い丸山にはそんな行動は取れなかったし、それを三人とも分かっていたのだ。
 丸山は泣く泣く再びティーグラウンドに立った。
 その時である。丸山の体を閃光と共にある予感が走り抜けた。
『次に打った球は確実にホールインする!』
 根拠は何もないが、そんなイメージが突如として丸山の心に鮮明に浮かび上がったのだ。
 丸山はすかさず振り返ると三人に提案した。
「どうだい。この一打がホールインしたら、この賭けを全部チャラにしてくれないか?」
「アッハハハ! お前、ホールインワンを出すつもりでいるのか?」「負けすぎてついに頭にきたか」「いいぜ。そのかわり、入らなかったら今までの倍払うんだろうな」
「いいとも!」丸山は即答した。
 60万円も払うことになったらそれこそ破産である。しかし、丸山には自信があった。
 絶対にこの一打は入る!
 丸山は高々とクラブを振り上げると、勢いよく振り下ろした。
 ドスッ!
「ウヒャハハハハ!」「なんだそりゃ!」「ダフってやんの。ウワハハハハハハハ!」
 丸山のクラブは虚しくボールの前の地面を叩いたのだ。
「さあ、60万払ってもらおうか」
 その瞬間、丸山の目の前は真っ暗になった。
 軌道を外れた地球がブラックホールにインしたのだ。






評価

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おまけ ゴルフに詳しくない方などのための用語説明

  • 【ニギる】お金を賭けること。本当は犯罪です。
  • 【ホール】○番ホールというように、ゴルフコースの一部分を指す場合と、グリーンに空いた球を入れる穴(カップ)のことをいう場合があります。ゴルフは普通18のホールをまわり、合計打数を競います。
  • 【ティショット】そのホールの第一打。
  • 【ティグラウンド】第一打を打つ場所。
  • 【OB】オービー。球が規定範囲外に出てしまうこと。1打加算された上に打ち直しをしなければいけません。
  • 【ホールインワン】1打でホールに球を入れてしまうこと。「エース」が正式名称。めったにあることではなく、これを出した人はパーティを開いてお祝いをするほどです。この作品の場合はその前にOBを出しているのでスコア上はホールインワンにはなりません。
  • 【ダフる】スイングが深すぎてボールの手前の地面をえぐってしまうこと。丸山のダフり方はかなり深かったようです。

作者からひとこと

 「ショートショート・メールマガジン」に掲載されたものに加筆修正しました。
 1999年ということで、こんなネタにしてみました。これが現実ならば、丸山はあの世で全世界の人に責められるでしょうね。
(1999/1/26)

 当時、方南町のマクドナルドでザウルス(アイゲッティ)を使って書いたのを思い出します……。
(2005/1/12)

初出

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