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星のオムライス

ショートショート星のショートショート

星のオムライス   玉生洋一

 地球を旅立ったおれが、銀河辺境の星に移住したのは6才の時だった。
 開拓民の父と共に降り立った、地球からの電波も届かないほど遠い星。
「この未知の星を、おれたちの手で理想郷にするんだ!」
 父の言葉におれの胸は希望でときめいていた。

 それから40年。おれの心は冷たく冷え切っていた。
 開拓は順調で暮らしは豊かだったが、おれの心の中には言いようのない虚しさが漂っていたのだ。
「この星でこのまま暮らしていていいものだろうか。おれは地球人だ。やはり地球で一生を終えるべきではなかったのか!?」
 そう思い始めるともう止まらなかった。たまらずおれは宇宙船に乗り込むと、エンジンを始動させた。
「幼い頃走ったあの草原をもう一度走るのだ!」
 宇宙船は、地球へ向けて一直線に飛び立った。

「おかしいな……」
 それから1年3ヶ月。幾度となくワープを重ね、おれはやっとのことで地球のある太陽系までたどり着いた。
 だが不思議なことに、火星・水星間の軌道上にあるはずの地球が見あたらないのである。
 そこには、見たこともない巨大な惑星があった。
「まさか、この惑星と衝突して地球は……」おれはおそるおそるその星に着陸した。

 その巨大惑星には、超高層ビルがギッシリと立ち並ぶ大都会があった。
 どうやら、かなりの人間がこの星で暮らしているらしい。だが、おれが着陸した宙港はひっそりと静まり返っていた。
 おれが宇宙船から降り立つと、数人の警備員を引き連れた職員らしい男が近寄ってきた。
 おれは男に聞いた。「ここは何という星ですか? 僕は地球に行きたいんですが……」
 にこやかな男の返答は驚くべきものだった。「ああ、ここが地球ですよ」
「そんな馬鹿な! 地球がこんなに大きいはずは……」
「ははぁ。あなた、移民ですね。何でまた地球に帰ってきたんです?」
「……そりゃ、地球が懐かしくなったからだけど?」
 男はゆっくり首を縦に振ると、話し始めた。「今から15年前のことです。あなたのような移民が『もう一度地球の土を踏みたい』と、どんどん帰ってくるようになったのですよ。大航宙時代が始まってからおよそ 100年。ある年月を過ぎると、人は望郷の念に駆られるようになるのかもしれません。それでも初めのうちはよかったのですが、なにしろ銀河中に散らばっていた地球人がその子孫たちと共にこぞって引き上げて来たのです。たちまち地球は飽和状態になりました」
「はぁ……」
「住民は皆『地球に住みたい』と言い張るし、その間にも移民たちは次々に帰ってきます。解決策はなにもありませんでした。しかし、困り果てた地球政府が最新鋭のコンピュータに相談したところ、コンピュータは見事な解決策を提示してくれたのです。政府は早速それを実行に移しました。住民全員を地球から退去させると、ミサイルで地球を破壊したのです」
「なんだって!!!」
「まぁまぁ、大丈夫ですよ。地球は粉々になりました。しかし、その破片はひとつも欠けることなく集められたのです。そしてそれをさらに細かく裁断しペースト状にすると、薄く引き延ばしました。そう、ちょうど卵でオムライスを作る時のように」
「……」
「そして、それをピンポン玉のような空洞の球体にすることにより、かつての数十倍の大きさを持つ新しい地球できあがったというわけです。人口問題は一気に解決しました。何しろ表面積はかつての数百倍。それどころか中心に人工太陽を浮かべることで、地球内部にも住むことができたのですから」
「そ、そんなことが……」
「27世紀の科学力をもってすれば容易なことはあなたにもお分かりでしょう」
「……」
 おれは何も言えなかった。地球が……地球がこんなことになってしまっているなんて……。たまらず、おれはその場に泣き崩れた。
「……イヤだ! こんなの地球じゃない! おれの住みたかった地球はこんなのじゃ……」
 男はなだめるように言った。「確かにそういう意見もありましたよ。でも、他のどの場所へ行っても、かつての地球はありません。それに、これはまぎれもなく地球の物質で作られた惑星なのです。そこに暮らせるのですから、皆満足していますよ」
「……ヒック……、もういい。とにかくどこかで休みたい……」
「それは許されません」
「なぜだ?」
「相次ぐ移民の帰還で、すでに新しい地球も手狭になっているのです。これ以上新しい帰還者を受け入れる余裕はありません」
「……そんな」絶望の淵にたたき落とされたおれは絶叫した。「うぐわおおおぉぉ!! 苦労してここまで帰ってきたのは何のためだったんだ! 地球で暮らせればそれだけでよかったのに……。おれは紛れもない地球人だぞ! 地球で暮らす権利があるはずだ。他には何も望まない! ただ静かに余生を暮らし、地球に骨をうずめられれば……」
「なるほど、確かに地球人であるあなたを追い出すのは忍びない。それほどおっしゃるならばお望み通りにして差し上げましょう」
 次の瞬間、おれの後頭部にはすさまじい衝撃が走った。

 男は周りの作業員に続けて言った。
「さぁ、この人間をすぐに『埋葬機』に入れて土へと還すのです。これで10坪分、また地球の面積が増エマスネ……。ホッホッホッホッ」






評価

面白かった→

作者からひとこと

 なんて自然保護を無視した話でしょう。人間中心の考え方はいけませんね。
 手塚治虫『火の鳥・望郷編』、藤子不二雄『老年期の終り』を読んでいない方は、それらもぜひどうぞ。
(2001/3/26)

「土葬にして、お墓を建てて、1坪占領するよりはいい」というご意見をいただきましたが全く同感。最近はビルの中の墓地も増えていますが、私は庭の片隅でいいと思うんですけどね(庭がなければ部屋の押入)。すぐにお参りできますし。
(2001/4/22)

初出

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