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赤毛恋盟

ショートショート色のショートショート

赤毛恋盟   玉生洋一

「あたしは生まれ変わるのよ!」
 美容室の前。アンは自分を奮い立たせるように呟いた。
 ずっと想いを寄せてきたウィルスンに、初めて胸の内をうち明けたのが数時間前。アンの頭の中では、まだ彼の声が鳴り響いていた。
「ボクは赤毛のコはちょっと……。君がボクと同じブロンドだったらなぁ」
 アンは三つ編みにした自分のお下げ髪をぎゅっと掴んだ。
「この髪の色が金色になれば、ウィルとつきあえるんだわ!」アンは、美容室のドアを勢い良く開いた。
 数分後。アンは木枯らしの中をとぼとぼと歩いていた。「髪を染めるって、お金がかかるものなのね。あたしのお小遣いじゃとても……」
 アンの瞳から涙が溢れる。しかし、涙が頬を伝うよりも早く、アンはその貼り紙を見つけた。

赤毛恋盟――恋の相談承ります。赤髪で心身共に健全な21歳以下の女性は誰でも資格あり。フリート街、ポープス・コート7番地、当恋盟事務所内のダンカンまでお気軽に』

「ふうむ、お話は分かりました」
 ダンカンはアンの話を聞き終わると、その温厚そうな顔を上下にゆっくりと動かした。「つまり、その見事な赤毛を金髪にしたいというわけですな。それほど彼のことを好きなんですか」
「……はい」アンは少し恥ずかしそうにうつむいた。
「ふうむ」ダンカンは少しの間の後に言った。「お嬢さん。もし彼の髪の毛の色が黒かったら、あなたは彼を嫌いになりますか?」
「とんでもない! あたしは外見で人を判断するようなことはしません。彼の髪の毛がどんな色だって構いませんわ!」
「だが、彼は外見であなたを判断している。そんな彼でも構わないんですか?」
「それが彼の好みなんですもの、仕方がないわ。彼の理想の女性像に近づける……彼とおつきあいができるなら、あたしは金髪になりたいんです!」
「……分かりました。ではその願いを叶えて差し上げましょう」ダンカンは立ち上がると、側にあった布を手に取った。
 布の下からは大きな鏡が現れた。
「こちらにおいでなさい」
「あ……」ダンカンに促されて鏡を覗き込んだアンは、小さな叫び声をあげた。
 同じように驚きの表情でこちらを見ている鏡の中のアンの頭には、ブロンドの髪の毛が輝いていたのだ。だが、鏡の外のアンは赤毛のまま。
「どういうこと……?」
「パラレルワールドをご存じかな? 世界はひとつではなく、一見同じような世界が無限に存在するという考えです。この世界ではお嬢さんは赤毛に生まれてきましたが、金髪のお嬢さんが暮らしている世界もあるのです。これは、それらの違う世界を繋ぐ鏡なのです」
「まぁ。じゃあ鏡の向こうの世界のあたしは幸せなのね。そんなの不公平だわ!」
「それはこっちのセリフよ!」
 アンは驚きのあまりその場に座り込んでしまった。鏡の中のアンが、ひょっこりと鏡の外に出てきたのだ。
「あなたこそずるいわ! その鮮やかな赤毛。灰色の瞳。なんて不公平なの!」
 ダンカンは二人に説明した。それによると、鏡の中のアンは、鏡の中のウィルに「赤毛でないとイヤだ」と言われたというのだ。
「じゃあ、あたしたちが入れ替われば……」
「はい。万事がうまくいくというわけです」
 二人のアンは飛び上がって喜んだ。そして、二人はそれぞれのウィルの元に飛んでいった。

 数時間後。ダンカンの前に赤毛のアンがションボリした表情で立っていた。
「ダンカンさん……。やっぱりあたし、入れ替わるのやめたいんですけど……」
「それは無理ですよ。こちらの世界のアンが二人になってしまいますから。……どうしたんです?」
「ウィルの……、ウィルの髪の毛の色が違ったの」
「だって、お嬢さんは外見では判断しないって……」
「そりゃ、ウィルの髪の毛が赤かろうが黒かろうが、あたしの愛は変わらない。でも……きゃっ! ウィルがここまで追ってきたわ!!」
 勢い良くドアを開けて入ってきた男は、緑色の髪の毛を振り乱し、頬を銀色に染めながら、蛍光オレンジ色をした熱っぽい視線のレーザービームを発射していた。
「アン〜、愛してるぅ〜!!」






評価

面白かった→

作者からひとこと

 先日、日テレから電話があって「玉生さんが参考にしている本は?」などと質問されました。某ストー○ーランドもよっぽどネタに困ってるらしいです。『ドラえもん』って答えときましたけど……。
 今回の話で参考にした本は、言わずと知れたアレです。外見だけで判断するのはいけないことですが、好みってありますよね。
(2000/3/28)

初出

ショートショート色のショートショート

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