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戦争をやめて

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戦争をやめて   玉生洋一

 僕が20歳になった秋。ついに世界大戦が始まってしまった。
 今はまだ海の向こうの話だが、僕のすぐ近くに戦渦が広がってくるのは時間の問題だろう。
 耐えきれなくなって僕は叫んだ。
「戦争はごめんだ!」
 すると、僕の目の前に白煙と共に魔人が現れた。「願い事がおありですかな?」
 たしか、この魔人には前にも会ったことがある。僕の願い事は何でもきいてくれるのだ。僕は魔人に懇願した。
「お願いだ、この戦争をやめさせておくれよ」
「承知しました」
 魔人は笑顔で一礼すると、そのまま消えてしまった。
 だが、戦争は一向に終わる気配がない。
「ああ、そういえば……」
 僕は思いだした。この魔人、願いは聞いてくれるのだが、その願いがすぐにかなうとは限らないのだ。

 僕が22歳になった冬。たくさんの白く光る物体が朝の空を埋め尽くした。
 それはケンタウリ星人が操る大船団だった。地球を植民星にすべく攻め込んできたのだ。
 世界大戦を牽引していた大国の大統領は、演説中に「ヒワッ」と叫んだきり黙り込んでしまった。それは世界大戦の終結を意味していた。そんなことをやっている場合ではないのだ。
 すでに最前線で戦っていた僕のもとに現れると、魔人は得意げに言った。
「どうです? 戦争を終わらせましたよ」
 確かに世界大戦は終わった。だが、宇宙人の高性能兵器は次々と世界各地の都市を襲っており、地球軍は応戦に大わらわだった。
 今度は宇宙戦争である。僕はまた懇願した。
「お願いだ、この戦争をやめさせておくれよ」

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 僕が25歳になった春。夜明け前の黒い空に見たこともない色の光が交錯した。
 続いて現れた様々な形をした宇宙船たち。
 それを見たケンタウリ星の司令官は「∨∈∫≒ΘГ!!」と叫んだきり、黙り込んでしまった。
 アンドロメダ星雲からの大船団が、銀河系を支配下に置くべく攻め込んできたのだ。
 ケンタウリ星人と手を組んだ地球人は、新たな戦争に突入した。
 生き残った地球人が潜伏している地下シェルター内で、僕は魔人に懇願した。
「お願いだ、この戦争をやめさせておくれよ」

 僕が30歳になった夏。突然青空に黒い大穴が空いたかと思うと、大船団が降ってきた。
 未来世界から全宇宙の生物が攻め込んできたのだ。空間が歪み、住めなくなった未来を捨てた彼らは、現代に新天地を求めたらしい。
 全宇宙中で未曾有の大戦争が始まってしまった。
 どうしようもなくなって、僕は魔人に叫んだ。
「こんな事態を引き起こした張本人は誰だ? そいつをここに連れてこい!」
「承知しました」
 魔人が指を鳴らすと、僕の目の前には2人の若い夫婦が現れた。
 2人は口々に「お前が悪いんだ」「何よ、アナタでしょう」などと罵りあっている。最初は気づかなかったが、少し離れたところには、その光景をガタガタと震えながら見つめている少年がいた。
「あ……!!!!」その時、僕は全てを思い出した。
 それは6歳になったばかりの『僕』だった。夫婦ゲンカの絶えない両親にウンザリした僕は、ある日魔人に頼んだのだった。「お願いだ、このケンカをやめさせておくれよ」と。
 しばらくして異国で紛争が起こり、父は海外に派遣されていった。そしてその紛争が徐々に戦争へと発展していったのだ。
 そうか、そうだったのか。ということは、別の方法でうまく夫婦ゲンカをやめさせれば、悲惨な未来は防げるのだ。
「ケンカの原因は何なのです?」僕の質問に、若き日の両親は口を揃えて答えた。
「……私たちは離婚をする事になったのですが、子供をどちらが引き取るかでケンカになっているのです」
 そういうことか。だったら解決方法は簡単だ。僕は魔人を呼ぶと最後の願いを口にした。
「承知しました」
 魔人が指を鳴らすと、僕の姿はすべての時代から消え失せた。
 だから、宇宙に平和が訪れたのかどうか、僕は知らない。






評価

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作者からひとこと

 争うことのちっぽけさ、エスカレートすることの怖さを感じていただけたでしょうか。
 決して亡くなった人の命がちっぽけだと言っているわけではありません。憎むべきなのは、大勢の人が亡くなったという事実だけなのです。
 喪失の悲しみを新たな喪失で癒してはいけません。戦争で死にたいと心から思っている人など、この世には誰一人いないのですから。(2001/9/17、2001/9/28)

初出

ショートショート・メールマガジン」第91号(2001年9月17日号)

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