「恋のジョージおじさん」別オチプロット 「身勝手は許さじ」編
(前略) ふと気がつくと、綾子は病室の白いベッドの上に横たわっていた。 「ここは……?」 「気がついたんだね。良かった」 「ジョージ……おじさん!」 綾子はたまらず、おじさんの胸に飛び込んだ。待ち望んでいたぬくもりを感じながら、綾子は泣き続けた。おじさんはやさしく綾子の頭をなでる。 「トムが……、トムがわたしのことを……」 「……許してくれとは言わない。どんな償いでもするよ」 「ううん。おじさんがそんなことを言う必要はないわ。うふふ……。おじさんはやっぱりトムとは違ってやさしいのね。……今はっきりと分かったわ。わたしにはやっぱりあなたしかいない。ジョージおじさん、お願い。わたしと結婚して!」 「……それはできない」 「どうして?」 「それは……私がジョージではないからだよ」そう言うと、男は綾子に鏡を手渡した。 それを覗き込んだ綾子はショックのあまり失神しそうになった。 「驚くのも無理はない。君は20年の間、意識を失っていたんだ。……私はトムだよ」 「そんな……! じゃ、ジョージは? ジョージおじさんはどこ?」 「ここにおるよ……」ヨボヨボのじいさんが返事をする。数人の看護婦や医者に混ざってずっと側にいたのだが、存在感はなく、気づかなかったのだ。 それが66才になったジョージだった。中途半端に禿げ上がった頭。すっかり腰も曲がり痩せこけたその姿からは、かつての広い肩幅、厚い胸板を想像することすらできない。 「20年たった今、君の気持ちを再度確認したい。おれとオヤジとどちらを取るんだ?」 ジョージとトムを見比べて複雑な表情をする綾子。ジョージが手にしている『老人用紙オムツ』を見るまでもなく、ほどなくして綾子はトムの胸に飛び込む。 「やっぱりあなたが好き!」 二人は固く抱き合う。ハッピーエンド……と思いきや、トムは無下に綾子の体を振り払うと言った。「すまない。おれ、もう結婚してるんだ」 病室のドアが開いたと思うと、金髪の美女と青年(若いトムそっくり)が入ってくる。 「じゃ、そういうことで」トム一家は仲むつまじく談笑しながら病室を後にする。 唖然とする綾子。残されたジョージじいさんと目が合う。「ジョージおじさ……」 綾子が声をかけようとすると、またドアが開き、上品な老婦人が入ってくる。 「じゃ」ジョージはそう一声言うと、お似合いの老婦人と腕を組んで出ていく。 後に残された綾子と医師、看護婦達の間に、しばらく気まずい空気が流れる。 「じゃ」という声と共に医師と看護婦達が病室から出ていく。 一人取り残された綾子。しばらく茫然と立ち尽くしていたが、すぐに笑いだし、画面に向かって「じゃ」と言うと、その場にぶっ倒れて画面から消える。