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恋の脱腸帯

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恋の脱腸帯   玉生洋一

 ボクは恋をしてしまった。
 あまりにも好きになりすぎて、胸が張り裂けそうに痛い……と思ったら、痛みは腹の方へ下りてきた。見ると、おなかの一部がポッコリふくれている。
「なんだ? イテテテテテ! こりゃ、やばい!」
 慌てて病院に飛び込むと、お医者さんは「脱腸だね」と言った。
「ダッチョウってなんですか?」
「簡単に言えば、おなかの壁を突き破って腸が出て来ちゃう病気だよ」
「ええっ、大丈夫なんでしょうか」
「うん、大丈夫だよ。実際に体の外まで出てくるわけじゃないし、君のは恋愛性脱腸だから」
「恋愛性?」
「うん。最近、思春期の小中学生に多いんだ。押さえきれない恋心を無理に押さえていると、代わりに体の中のものが飛び出して来ちゃうってわけ。普通は胸がいっぱいになるんだけど、君の場合はすこし下にずれて脱腸になっちゃったんだね。治すためには早く告白することだよ」
「ええっ、そんな勇気ボクには……」
「平気平気。恋心に押されて腸が出てきたわけだから、それを出てこれないようにしてやれば……」
 ボクはお医者さんにゴムの腹巻きをしてもらって帰ってきた。脱腸帯と言って、これでおなかを押さえつけることによって、腸が出てくるのを防げるんだそうだ。腸が引っ込めば、逆に恋心の方が引っ込みがつかなくなって自然と告白することになるってわけ。
 次の日、果たしてボクの恋心は、押さえきれないほどに膨張していた。ボクは彼女を校舎の裏に呼び出すと、思いのたけを告白した。
「つつつつ、付き合って下さ〜い!」
 しかし、彼女は顔を赤くしながらモジモジするばかり。
「どうなの? ダメなの? ボクのこと嫌いなの?」ボクは押しに押して彼女をせかした。何しろ、早く決着をつけないと、体がどうにかなってしまうのだ。
「……あなたのことは……嫌いじゃないわ。でも……」
「でも……?」
「……あたしのことを好きって本当なの? どれくらい? あたし……自分よりも好きになってくれる人じゃないとイヤなの。愛する以上に愛されたいの」
「なんだ、そんなことか」つまり、彼女は気持ちを形にして見せてもらいたいのだ。
 そんなの、今のボクには簡単だ。ボクはすかさずズボンのベルトに手をかけた。

「それで、結局彼女とはうまくいかなかったってわけかい。当たり前だよ。いきなりそんなことしちゃ……」お医者さんはボクを診察しながら溜息をついた。
「ちがうよ。ボクは嫌われちゃいない。ボクがズボンを下ろしたのを見て、彼女もブラウスのボタンをはずし始めたんだけど……」
「え……!?」
「ボクは負けちゃったんだ。なにしろ彼女の愛は2個分もあって、今にもはち切れんばかりだったんだよ」






評価

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作者からひとこと

 今回は選べるテーマが少なかったので苦労しました(「っ」が入っているのはご愛敬ということで……)。シリーズ前回の『人乳育ち』に続き、変な方向に行ってますが、軌道修正は多分まだ効くはずです。
 ちなみに赤ん坊の頃に脱腸になった早熟な私は、ヒロインとは逆で愛されるより愛する方が好みです。皆さんはどうですか?

  •  今週のボツ話→『恋のダチョウ便』『恋の駄賃帳』『恋のダチ公』(他に何か思いつきます?)

(1999/11/5)

初出

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