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 [[ショートショート]]>恋のショートショート
 
 *恋のイルカレター   玉生洋一 [#z3de0203]
 
  恋をしたからといって、別に何かが始まるわけじゃない。
  だって、恥ずかしがりやの私には、告日する勇気がないんだもの。
 「あたしが代わりに伝えてあげようか?」
  だめよ、好きな人を知られるなんて恥ずかしいわ!
 「だったら、手紙を書きなさいよ きっとうまくいくわよ」
  だめ! もし失敗したら、後に残っちゃうじゃない。気休めはやめて!
 「じゃあ、イルカしかないわね」
  だめぇ〜〜〜〜!! ……って、え……? それどういうこと?
 「近所の水族館に親切なイルカがいるのよ。そのイルカの前でこっそりと好きな人のことを言えば、思いを伝えてくれるってうわさなの」
  からかわないで!
 「あら、知らないの? イルカって人間並にかしこいのよ。人間の言葉も理解するし、超能力を持ってるとまで言われてるんだから」
  確かにかしこいとは聞くけれど、とても信じられないわ……と言いつつ、今、私は水漕の前に立っている。恥ずかしくて彼としゃべることすらできない私には、こんなことをするのが精一杯なの。
  辺りに人影がないことを確かめると、私はちょうど目の前にいた小柄なイルカに話しかけた。
 「イルカさん聞いて。私が好きなのは3組のタカシくんなの。この思いをどうか彼に伝えて!」
  次の瞬間、私の頭の中で声が聞こえた。「分かった。伝えてあげるよ!」
 「……何? 誰なの!?」
 「ボクだよ。目の前のイルカだよ。タカシくんって、この人だろう?」
  イルカの言葉に続いて、私の頭の中にタカシくんの笑顔が映し出された。
 「な、何これ……」
 「君の頭にテレパシーで直接イメージを送ったんだ。どうしてタカシくんの顔を知ってるかって? ボクは超能力を持っているのさ。分からないことやできないことはないよ!」
 「でもあなた、水槽の中から出られないじゃない。どうやって伝えてくれるの? タカシくんの家までそのテレパシーは届くの?」
 「残念ながら側の人にしか届かないんだ。でもちゃんと方法があるから大丈夫。安心して任せて!」
  次の日、私が学校へ行くと、校門にタカシくんの姿があった。
  いつものようにドキドキしながら私が横を通り抜けようとすると、タカシくんがすれ違いざまにそっと囁いた。「ちょっと待って! あの……、……OKだよ……」
  どんな方法かは知らないが、イルカが約束通り、私の思いを伝えてくれていたのだ。
  それから、私の新しい日々が始まった。モノトーンで覆われていた学校生活は、たちまち鮮やかな色で染められた。彼がいるってことが、こんなに素敵なことだったなんて!
  学校を卒業してからも、楽しい日々は続いた。彼と過ごした誕生日。二人だけの海。クリスマス……。かけがえのない思い出が胸に刻まれた。私は思った。こんなに幸せでいいのかしら。
  だが数年後、破局は突然訪れた。タカシが浮気をしていたのだ。一回や二回ではない。ずっと他に女がいたのだ。問いつめるとタカシは「お前とは最初から遊びだった」とまで言い放った。
  誠実で真面目な人だと思っていたのに……。私は奈落の底に叩き落とされた。
  こんな人だと知っていたら、告白しようなんて思わなかったのに……!!
 「じゃ、やめておこうか」
  気がつくと、目の前には小柄なイルカがいた。
 「え……? ここは……!?」そこは水族館の水槽の前。制服姿の私以外に人影はない。
 「君と彼がつきあったらどうなるか予知して、イメージで見せてあげたんだ。どうする? これでもやっぱり彼に思いを伝えるかい?」
  私はしばらく呆然としていたが、我に返ると腹から怒りがこみ上げてきた。
 「……ひどい!」
 「そうだ。彼ほどひどい男は滅多にいないよ。君も彼の被害者にならずに済んでよかったね」イルカはニコニコと優しい笑顔をこちらに向けている。
  私はたまらず叫んだ。「何言ってるの、ひどいのはあなたの方よ! タカシくんがそんなひどい人だなんて…………そんなわけないじゃない!」
 「何を言うんだ。ボクは予知したから言ってるんだよ」
 「あなたの予知が正しいなんて保証がどこにあるのよ! いいかげんなこと言わないで!」
 「じゃあ、君は彼の何を知っているって言うんだい。しゃべったこともないくせに」
 「……そ、それは……」
 
  次の日の朝、私は校門の前に立っていた。
 「ちょっと待って! あの、実は私……」タカシくんが横を通り抜けた時、自分でも不思議なくらい簡単に言葉が口から飛び出した。
  イルカの言ってた『方法』って、このことだったのかしら?
  そんなことがチラリと頭をよぎったが、別にどっちでも構わない。もっと大事なことを自分の目で確かめなくちゃ。
  私はゆっくりとタカシくんの横を歩き始めた。始まりの感触を両手いっぱいに抱きしめながら。
 
 
 
 
 
 
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 **評価 [#t6aac70b]
 
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 **作者からひとこと [#v7d5fa66]
 
  恋をして悩んでいるあなた、さっさと行動に移しましょう。告白に慎重になり過ぎて時機を逃したり、つきあった後で失敗するよりも、つきあってから色々と慎重になった方がいいのでは……などというテーマの話です。
  ここでは女の子を応援するような終わり方にしましたが、実際はたいていイルカが正しいです。男友達の忠告には耳を傾けるように!(男こそ女友達の忠告を聞け……って言われそうですが)
 (1999/6/27)
 
 
 **初出 [#ea1053bf]
 
 -「[[ショートショート・メールマガジン]]」第25号(1999年6月12日号)
 
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