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気のあう映画館   玉生洋一

 映画を見ていたら、突然クシャミがしたくなった。
 あいにく映画はちょうど静かな場面。館内は静まり返っている。
 おれは必死にクシャミをこらえながら祈った。早くBGMの大きな場面になってくれ……!
 だが、とうとう限界が来た。おれはたまったものを一気に吐き出すしかなかった。
「ハ、ハ、ハ……ハックショーン!!!」
 やってしまった。周りの人の冷たい視線がおれに突き刺さ…………………らない。
「???」
 不思議に思ってスクリーンを見ると、その謎が解けた。
 スクリーンの中では、ちょうど主人公が大きなクシャミをしたところだったのだ。
 タイミングが全く一緒だったために、おれのクシャミには誰も気がつかなかったのである。
「助かった……!」
 ホッと胸を撫で下ろしたおれは、またスクリーンに視線を戻した。
 だが、それも束の間、しばらくすると今度はオナラがしたくなってしまった。
 おれは顔を真っ赤にしてこらえた。映画はちょうどラブシーンの最中だったのだ。ここでオナラなどしたらムードがぶち壊しである。
 だが、とうとう限界が来た。おれはたまったものを一気に吹き出すしかなかった。
「ぶううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅ」
 今度こそやってしまった。周りの人の冷たい視線がおれに突き刺さ…………………らない。
「??????」
 不思議に思ってスクリーンを見ると、その謎が解けた。
 スクリーンの中では、ちょうど主人公の車が走り出したところだったのだ。
 車内でのラブシーンの最中に、別の車が近づいてきたのである。
「助かった……!」
 偶然はそれからも続いた。
 うっかりと椅子をきしませてしまい「みし」という音が館内に響き渡ると同時に、スクリーンでも主人公の歩く床がきしむ。
 おれがせんべいを食べると、主人公もスナック菓子を食べ出す。
 主人公の電話のベルの音と共に、おれの携帯のベルも鳴る。
 どうやら、今日のおれはかなりついているようだ。すっかり安心したおれは、いつしか寝入ってしまった。心配はいらない。どうせイビキをかいても平気なのだ。
「グウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ…………」

 パトカーのサイレン。映画館は何人もの警官で囲まれていた。
「ということは、ガイシャは映画の上映中に殺されたわけだな」
「すぐに手当をすれば助かったろうに……」
「どうして誰も銃声に気づかなかったんだろう。これは難しい事件になりそうだぞ」






評価

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作者からひとこと

 hさんに頂いたお便りによると、これは「シンクロニティ症候群」と呼ばれているものらしいです。映画を観てなりきってしまう人と同じだと。なるほど。皆さんも映画を観るときは入り込みすぎないようにご注意を!
(1999/5/19)

初出

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