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※この作品は『恋のジョージおじさん』の別バージョンです。

*恋のジョージおじさん 「哀れなふたり」編   玉生洋一 [#wa0d5c88]

(前略)

 前半部でトムと別れた綾子は、そのまま無事にジョージと入籍、そして結婚式を挙げる。
 盛大な結婚式の最中、トムが乱入、ウェディングドレス姿のの綾子をさらって逃走する。
両腕に綾子を抱えて全力で走るトム。
「離して!」イヤがる綾子はトムの腕の中で抵抗を続ける。
 ホテルの正面階段の上まで来た時、綾子に顔を引っ掻かれたトムは思わず転倒。トムの腕から投げ出された綾子は宙を舞い、長い階段から転げ落ちる。暗転。

 夢か現実かはっきりとしないもうろうとした意識の中、綾子はベッドに横たわっていた。
心配そうにのぞき込むジョージおじさんとトムの姿が目に映っては消える。暗転。

 目覚めた時、ベッドサイドにはジョージとトムがいた。
「ここは……?」「気がついたんだね。良かった」「ジョージ……おじさん!」
 綾子はたまらず、おじさんの胸に飛び込んだ。待ち望んでいたぬくもりを感じながら、綾子は泣き続けた。おじさんはやさしく綾子の頭をなでる。
「トムが……、トムがあたしのことを……」
「……許してくれとは言わない。どんな償いでもするよ」
「おじさんがそんなことを言う必要はないわ。償いをするべきなのはあなたの方よ!」トムをきっと睨み付ける綾子。オロオロとうろたえるトム。
「(再びジョージに向き直って)うふふ……。おじさんはやっぱりやさしいのね。……わたしにはやっぱりあなたしかいない。ジョージおじさん、早く結婚式の続きをやりましょう! そしてわたしと幸せに暮らしましょう!」
「……それはできない」「どうして?」
「それは……私がジョージではないからだよ」そう言うと、男は綾子に鏡を手渡した。 
 それを覗き込んだ綾子はショックのあまり失神しそうになった。そこには40代の自分の顔があったのだ。
「驚くのも無理はない。君は20年の間、意識を失っていたんだ。……私はトムだよ。ここにいるのは私の息子だ」
「そんな……! じゃ、ジョージは? ジョージおじさんはどこ?」
「ジョージは……親父は死んだよ。数年前にガンでね」
「……!」わっとベッドに泣き伏せる綾子。
 どうしたものかという表情でそれを見つめるトムと息子。

 やがて息子は部屋を出ていき、病室にはトムと綾子だけになる。
 トムは綾子を慰めようと言う。「……本当にすまない。だけど私はまだ君を愛している。君さえ良ければ私と……」
 その途端にバァと顔をあげる綾子。見ると涙の跡などどこにもない。驚くトムをよそに綾子は高らかに笑い出す。
「アッハハハ! トム! あたしたちは大金持ちよ!」「!?」
「実はね、あたし、ジョージと入籍してすぐ、彼に莫大な生命保険に入るようそそのかしたのよ。ジョージと結婚したのは最初からお金目当てだったの。あんたになくてジョージが持っていたもの、それはお金だったのよ! でも、今あたしたちはかつてのジョージなんか問題にならないほどの大金持ちよ! 20年の歳月なんかどうでもいいわ!!」

 その時、病室のドアが勢い良く開くと共に、数人の警官を引き連れて刑事が入ってくる。
「お前を保険金詐欺の容疑で逮捕する!」
「どういうこと?」驚いた綾子は咄嗟にトムの顔を見る。
 刑事がトムの肩を叩いて言う。「どうです? これで分かったでしょう?」
 トムはわなわなと震えていたかと思うと、右手を大きく振りかぶり綾子の頬に叩きつける……平手打ち?と思いきや、「ベリ」という音と共に綾子の顔から何かをはぎ取っただけだった。
 それは特殊メイクのマスク。マスクの下からは21才の綾子の顔が現れる。
「(怒号)20年後なんてウソ。こいつはトム、私は正真正銘のジョージだ!」
 愕然とする綾子。
 側に来ていたトムと共にジョージは泣き怒り狂いながら叫ぶ。「お前がそんな女だったなんて! 信じてたのに!」
 綾子は大勢の警官に囲まれて病室を後にする。
 抱き合ってさめざめと泣く親子を残して。


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**評価 [#ke8ca5f5]

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**作者からひとこと [#m7df0eb5]
 綾子の悪女ぶりが一番際立つ一本。保険金目当てというのはわりとありがちですが。芝居の発案者がジョージでもトムでもないところがミソ。
(1999/11/11)

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