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※この作品は『恋のジョージおじさん』の別バージョンです。

*恋のジョージおじさん 「純愛」編(プロット)   玉生洋一 [#rac500ba]

 アヤコ(綾子・OL)のモノローグ「ふたりの人を同時に好きになる……よくある話って言われるかもしれないけど、あたしの場合はちょっとフクザツだったの」

 以下、年下のBF・トモヤ(智也・大学生)の紹介。スラッとした長身でさわやかな二枚目。大学のサークルでテニスをするトモヤ(キャプテンでスポーツ万能)。下級生達の黄色い声援。練習が終わり、そこに現れた綾子と街に消えていく。
 幸せ一杯のデートの風景。ファーストフードでジュースをこぼしてしまうトモヤ。「しょうがないわね」やさしく拭いてあげるアヤコ。二人で大笑い。
 街で外国人に道を聞かれるがうまく答えられないトモヤ。代わりにアヤコがなんとか答える。「緊張しちゃった」二人で大笑い。
 夕暮れの道端に捨て猫がいるのを見つける二人。トモヤは少年のように目を輝かせると、子猫(掌大)を抱き上げて頬ずりする。それを眩しそうに見つめるアヤコ(母親の眼差し)。

「あたしはとっても幸せだった。トモヤ以上の男性はいないって思ってたんだもの。……でも、いたの。トモヤをより完璧にした人が」
 何気なく、トモヤの家に遊びに行ったアヤコ。そこでトモヤの父親のジョージ(丈治・外国映画に出てきてもおかしくないようなダンディな紳士)に出会い、ショックを受ける。
「トモヤのお友達? ゆっくりしていって下さいね」

 仕事中もジョージの面影が頭から離れないアヤコ。取引先の会社で偶然ジョージとバッタリ。「私、これから食事に行くところなんですが、ご一緒にいかがですか?」
 ジョージのいきつけの店(上品な高級レストラン)での食事。次々とボーイに指示を与えるジョージ(ワインの銘柄など)。数々の経験に裏打ちされた、尽きることのない豊富な話題の数々。食事の途中でジョージの知り合いの外国人(取引先の相手)が現れるが、流暢な英語で談笑する。ジョージが自分に向かって喋る姿を眩しそうに見つめるアヤコ(憧れの眼差し)。
 母子家庭に育った綾子は父親の顔を知らなかった。トモヤになくてジョージが持っていたもの、それは大人の男性の包容力だったのだ。
 食事が終わり、アヤコだけをタクシーに乗せて見送るジョージ。遠ざかっていくジョージをアヤコは愛おしそうに見つめる。

 別の夜。トモヤと安っぽい居酒屋でのむアヤコ。「生ビール半額って表に書いてあるじゃないか!」と従業員と言い争っているトモヤ。「サークルで今度○○と○○がつきあい始めてさ」「月の中身って空洞なんだぜ。知ってた?」愚痴や、現実的でない夢のような話ばかりするトモヤ。今までは楽しく聞いていた話だが、今のアヤコにはくだらなく感じられる。
 散々喋った挙げ句に酔いつぶれて寝てしまうトモヤ。「起きてよォ」アヤコがゆすっても起きない。アヤコはため息と共にグラスを傾ける。

 日に日にジョージに傾いていくアヤコの心。ジョージはすでに離婚していたので、綾子とつきあうことには何の問題もない。
 仕事であう関係上から、たまに食事をするようになっていたジョージとアヤコ。いつものように食事を終えた後の歩道橋の階段の上。つまずいた拍子に被っていた帽子を夜風にさらわれてしまうアヤコ。
 さっと大きな腕で帽子をつかむと共に、アヤコの体をその広い胸で抱き留めるジョージ。
 アヤコの頭に安らぎと共に衝撃が走る。「わたしの相手はこの人、ジョージおじさんしかいない!」

 それから数日後の晩の居酒屋。意を決したアヤコはトモヤにすべてを打ち明ける。当然のことながらトモヤは激怒し、アヤコを罵り、別れたくないと懇願し「愛してるんだ」と泣き出す。だが、アヤコの心はもう動かない。トムのすべてが子供じみて感じられる。

「早くジョージの広い胸に抱かれたい」アヤコはトモヤを残して足早に店を後にする。その足でジョージに会いに行き、正式に交際を申し込むつもりだった。
 例の歩道橋の上で、追いかけてきたトモヤと口論になる綾子。
 また帽子が風に飛ばされるが、トモヤは話すのに必死で気づく様子もない。
「待てよ!」もみあった拍子に階段の最上段から転落する綾子。
 宙を舞いながら、トモヤと綾子の視線が合う。暗転。


 ふと気がつくと、アヤコは病室の白いベッドの上に横たわっていた。
「ここは……?」「気がついたんだね。良かった」「ジョージ……おじさん!」
 アヤコはたまらず、おじさんの胸に飛び込んだ。待ち望んでいたぬくもりを感じながら、アヤコは泣き続けた。おじさんはやさしくアヤコの頭をなでる。
「トモヤが……、トモヤがあたしのことを……」
「……許してくれとは言わない。どんな償いでもするよ」
「ううん。おじさんがそんなことを言う必要はないわ。うふふ……。おじさんはやっぱりトモヤとは違ってやさしいのね。……今はっきりと分かったわ。わたしにはやっぱりあなたしかいない。ジョージおじさん、お願い。わたしと結婚して!」
「……それはできない」
「どうして?」
「それは……私がジョージではないからだよ」そう言うと、男はアヤコに鏡を手渡した。 
 それを覗き込んだアヤコはショックのあまり失神しそうになった。
「驚くのも無理はない。君は20年の間、意識を失っていたんだ。……私はトモヤだよ」
「そんな……! じゃ、ジョージは? ジョージおじさんはどこ?」

「ここにおるよ……」ヨボヨボのじいさんが返事をする。ずっと部屋の中にいたのだが、存在感はなく、気づかなかったのだ。
 それが60代になったジョージだった。中途半端に禿げ上がった頭。すっかり腰も曲がり痩せこけたその姿からは、かつての広い肩幅、厚い胸板を想像することすらできない。
 恰幅も良く貫禄の付いたトモヤと、ジョージを見比べて絶句するアヤコ。

 看護婦を呼びに行くためにトモヤは病室を出ていく。ジョージと二人きりになるアヤコ。
 トモヤはもう結婚しているだろうし、ジョージはヨボヨボ。愛する人も20年の歳月もすべてを失って、これからどうやって生きていけばいいのか……。途方に暮れたアヤコはさめざめと泣き出す。
 それを慰めるために静かに語り始めるジョージ。いざしゃべり出すと、その顔つきはかつての精悍なものへと変わる。
「泣くのはおやめなさい」
「ジョージ……おじさん。私は本当はあなたのことを……」
「君は私にトモヤの面影を見ていただけだよ。その証拠に、今トモヤのことを私と間違えたじゃないか」何も言えないアヤコ。
「20年前、トモヤはかなり取り乱したそうだけど、それも君を愛していたからこそ。考えてもごらん。自分を捨てた彼女が自分の父親の元へ行くなんて知ったら、誰だって……」
「じゃあ、ジョージおじさんでも?」
「ああ。私にも若い頃は同じくらい愛せる女性がいたからね。(遠くを見つめて)私がここまでやってこれたのはどうしてだと思う? その人の存在があったからなんだ。同じように、今のトモヤがあるのは君の……君の20年があったからこそなんだよ! トモヤはまだ結婚もしていない。20年間、君を看病し続けていたんだ!!」
 ショックを受けるアヤコ。そこにトモヤが入ってくる。どうやら話を部屋の外で聞いていたらしい。
「君を失った瞬間、私の中のすべての時間は止まった。君の意識が戻らない間、確かに私は言いようのない寂しさを味わった。その一方で、君を誰にも奪われることがないという安心感もあった。だが、今日、時は動き出した……」
 寂しそうにうつむくトモヤ。立場的にとても再び求愛することなどできないのだ。
 その胸に飛び込むアヤコ。
 驚くトモヤ。「どうして? 私は君の20年間を奪ってしまったというのに……」
「あたしの20年はあなたの中にあるわ!」トモヤの胸に顔を埋めながらアヤコは言う。
 固く抱き合う二人。
 泣きながら微笑むアヤコの頭の上にトモヤがのせたのは、あの日風に飛ばされた帽子だった。
 その側では、ジョージが優しい笑顔で微笑んでいる。
 窓の外では、大きく育った老猫が、数匹の子猫たちと共に「ニャー」とないた。


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**作者からひとこと [#z40fd2a4]
 プロットの段階で最終的に「これでいこう」ということになった原稿。オーソドックスですが、感動できるということで。……なのに放送されたものは180度違いましたが。

 名前は初出ではマークでしたが、ジョージと紛らわしいということでトムに。後に外人にする必要はないということでトモヤにしました。
 自動車事故のシーンもスポンサーの関係でカット。
 タイトルなど、これ以後の変更は私は関わってません。
(1999/11/11)

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