- 追加された行はこの色です。
- 削除された行はこの色です。
- 拾った携帯 へ行く。
#include2(SS/戻り先,,none)
[[ショートショート]]>その他のショートショート
*拾った携帯 玉生洋一 [#eed98ee2]
#ref(k-tai.jpg);
バス停で携帯電話を拾った。
交番に届けようと思ってはいたのだが、ついなんとなく家まで持って帰ってきてしまった。
まぁ、持ち主が気づけば電話をかけてくるだろうし、そうしたら届けに行くなり、取りに来てもらうなりすればいいだろう。
そんなことを考えていると、さっそく着信ベルが鳴った。
「はい、もしもし」
「あの、この間のことなんだけど……」
女の声だ。どうやら持ち主ではないらしい。「いや、私は……」
「いいの。何も言わないで。……私が悪かったの。ごめんなさい。なんでもするわ。許してくれる?」
「いや、だから私は……」状況を説明したいのだが、うまく言葉が出ない。
「許してくれるの? くれないの!?」
女の迫力に押されて、私はついポロリと言ってしまった。「ゆ、許すよ」
「ありがとう!! 約束よ! もうどうしようかと思ってたの。じゃあ、またね!」
女の晴れやかな声を残して電話は切れた。
「やれやれ。なんだろう? 喧嘩かな?」
電話はまだまだかかってきた。
「何も言わずにおれを許してくれ」
「悪かったです。許して下さい……」
「ユルシテ〜!」
面倒だったので、おれは全員に「許す」と答えて電話を切った。
何だ? この携帯の持ち主は一体、よってたかってどんなひどい仕打ちをされたんだろう?
#ref(k-tai_shiuchi.jpg);
* *
持ち主からの連絡はなにもないまま、数日が過ぎたある日のこと。
運の悪いことに、おれはバスの中で財布をすられてしまった。
人のものを盗るなんて! おれは激高した。
気のせいか、最近町が物騒になっている気がする。こういう犯罪者どもには、罪の意識はないのだろうか?
おれが怒りに体を震わせていると、拾った携帯のベルが鳴った。
「またやってしまったんです。つい出来心で……。お許し下さいますよね?」
「許す許す」
おれはいつものようになげやりに言うと電話を切った。
今は何もかもが鬱陶しかった。着信ベルの『賛美歌』さえも……。
~
~
~
**評価 [#j04762a0]
面白かった→&vote2(●[659],nonumber,notimestamp);
**作者からひとこと [#d89f32b7]
最近自転車を盗まれました。犯人はすみやかにもとの場所に返すように! ただ懺悔して許しを請うよりも、償うことの方が遙かに大事だと思います。
携帯の持ち主の○○さんが誰か分からない人は、十字を切って考えましょう。
○○さんは、自分の番号を覚えておらず、仕事熱心だったので、携帯の番号を教えあうような「友達」もいなかったんでしょうねぇ……。
(1999/7/19)
以前に描いた漫画の一部を挿絵風に掲載しました。
(2006/1)
**初出 [#gb4fc5ac]
-「[[ショートショート・メールマガジン]]」第27号(1999/6/27号)
-ウェブ公開(1999/7/19)
[[ショートショート]]>その他のショートショート