完璧なプレゼント
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完璧なプレゼント 玉生洋一†
「どうしたの由美子。悩み事でもあるの?」 街でバッタリ出会った大学時代の友人との食事中、私は何気なく訊ねた。 「相談に乗ってくれるぅ? 実はね。クリスマスにカレにあげるプレゼント、何をあげたらいいかで迷ってるの〜」 「なんだ、そういうことか。よし、あたしがそれとなく欲しいものを聞いておいてあげるよ」 「え?」 「あたしと田村くん、高校が一緒だったでしょ。来週クラス会があるのよ。田村くんってお酒に弱いから、きっとすぐに色々と喋ってくれるよ」 「本当〜!? よろしく頼むね! ありがとう〜! ありがとう〜!」 駅での別れ際、由美子は一生懸命にぴょんぴょんと飛び跳ねながら延々と手を振り続けていた。昔から由美子にはこういう無邪気なところがあるのだ。思わず守ってあげたくなるようなしぐさに、男女問わず好かれている秘密があるのかもしれない。
* *
クラス会の当日。私は早速田村くんの隣の席に陣取った。 早くも酔いが回りはじめた田村くんは、案の定クリスマスの話を振っただけでいとも簡単にペラペラと喋り出した。
「プレゼント〜? オレはやっぱり手作りがいいね。工場で機械が作ったような品物じゃ、何か心がこもってないじゃん?」 「よく『一緒に買いに行く』なんてヤツがいるけど、オレはイヤだなぁ。それじゃ結局オレの判断で選んでるようなもんだろ? やっぱりオレの助けなしでコッソリ用意しておいて驚かせてくれるってのがいいね!」 「流行ものとかはあんまり……。基本はやっぱりオレがその時に欲しがってるものだよな! うん」
満面の笑顔で喋り続ける田村くんは本当に幸せそうだった。田村くん本人もあたしに「実はそろそろ由美子にプロポーズしようかと思ってるんだ。何か気の利いたセリフないかな?」なんて打ちあけてきた。 どうやら2人の恋は安泰みたい。 クラス会からの帰り道。私は由美子の喜ぶ顔を想像しながら携帯を手に取った。
* *
それから3年後。私はまた由美子と街で偶然再会した。 「久しぶりね〜。そうそう、あの時言ってた話はどうなった? プレゼント、うまくいったの?」 「それが……色々準備してたら結局クリスマスには間に合わなかったんだけど、おかげさまでカレの希望通りのものをプレゼントできたのよぉ! ありがとね!」 「よかったね! 田村くん喜んでくれたでしょう?」 「……それがね、ちっとも喜こんでくれなかったの。それどころかもの凄い剣幕で怒りだしちゃって……。遅くなっちゃったのがいけなかったかったのかなぁ? あたしたち結局それっきりなのよ」 「え〜!? あんた、一体何をプレゼントしたの?」 「苦労して用意したのよ。時間もかかったし、そりゃもう大変だったんだから。カレの願いを全部満たすにはまず【心がこもった手作り】じゃなきゃいけないでしょ。それから【カレの力を借りずにコッソリ用意】しておいて驚かさなきゃいけない。品物は【カレが欲しがってるもの】……。だからあたし、カレにそれとなく聞いてみたのよ。『今あなたが欲しいものってなあに?』って。そうしたらカレ、顔を赤くしながらあたしの肩を抱き寄せて、はっきりとこう言ったのよぉ? 『そろそろ君の子供が欲しいな……』って」
「ママ〜」 その時、由美子の足の陰から由美子そっくりな可愛らしい女の子が顔をのぞかせた。 だが彼女は、田村くんにはちっとも似ていなかった。
評価†
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作者からひとこと†
田村くんも「君と僕の子供が欲しい」と言ってプロポーズしておけばよかったんですけどね。皆さんも気をつけましょう。 (2003/7/31)
初出†
- 「ショートショート・メールマガジン」第97号(2002/12/13号)
- ウェブ公開(2003/7/31)
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