気のあう映画館

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気のあう映画館   玉生洋一

 映画を見ていたら、突然クシャミがしたくなった。  あいにく映画はちょうど静かな場面。館内は静まり返っている。  おれは必死にクシャミをこらえながら祈った。早くBGMの大きな場面になってくれ……!  だが、とうとう限界が来た。おれはたまったものを一気に吐き出すしかなかった。 「ハ、ハ、ハ……ハックショーン!!!」  やってしまった。周りの人の冷たい視線がおれに突き刺さ…………………らない。 「???」  不思議に思ってスクリーンを見ると、その謎が解けた。  スクリーンの中では、ちょうど主人公が大きなクシャミをしたところだったのだ。  タイミングが全く一緒だったために、おれのクシャミには誰も気がつかなかったのである。 「助かった……!」  ホッと胸を撫で下ろしたおれは、またスクリーンに視線を戻した。  だが、それも束の間、しばらくすると今度はオナラがしたくなってしまった。  おれは顔を真っ赤にしてこらえた。映画はちょうどラブシーンの最中だったのだ。ここでオナラなどしたらムードがぶち壊しである。  だが、とうとう限界が来た。おれはたまったものを一気に吹き出すしかなかった。 「ぶううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅ」  今度こそやってしまった。周りの人の冷たい視線がおれに突き刺さ…………………らない。 「??????」  不思議に思ってスクリーンを見ると、その謎が解けた。  スクリーンの中では、ちょうど主人公の車が走り出したところだったのだ。  車内でのラブシーンの最中に、別の車が近づいてきたのである。 「助かった……!」  偶然はそれからも続いた。  うっかりと椅子をきしませてしまい「みし」という音が館内に響き渡ると同時に、スクリーンでも主人公の歩く床がきしむ。  おれがせんべいを食べると、主人公もスナック菓子を食べ出す。  主人公の電話のベルの音と共に、おれの携帯のベルも鳴る。  どうやら、今日のおれはかなりついているようだ。すっかり安心したおれは、いつしか寝入ってしまった。心配はいらない。どうせイビキをかいても平気なのだ。 「グウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ…………」

   *   *

 パトカーのサイレンが鳴り響く中、館内には何人もの警察関係者が行き交っていた。 「ということは、ガイシャは映画の上映中に殺されたわけだな」 「すぐに手当をすれば助かったろうに……」 「どうして誰も銃声に気づかなかったんだろう。これは難しい事件になりそうだぞ」




評価

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作者からひとこと

 hさんに頂いたお便りによると、これは「シンクロニティ症候群」と呼ばれているものらしいです。映画を観てなりきってしまう人と同じだと。なるほど。皆さんも映画を観るときは入り込みすぎないようにご注意を! (1999/5/19)

初出

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