偽善の日(ver.2)

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偽善の日(ver.2)   玉生洋一

 突然、空にUFOがやってきて言った。 「地球の皆さんこんにちは。私は宇宙人です。突然で申し訳ありませんが、地球を征服させていただきます。で、地球人は多すぎるので減らします。今から12時間観察して、悪人と認められた者を皆消します。どぞ、よろしく。あ、あと偽善者も皆消します」  当然のことながら、地上は大騒ぎになった。

 泥棒は窓から忍び込もうとしていたときに、このUFOからの放送を聞いた。 「何だって、えらいこっちゃ。消されたくない。泥棒なんてやってたら悪人の烙印を押されっちまう。ええい。やめだ、やめ。泥棒をしなければ悪人にはならないだろう。悪人にならなければ善人ということになる。……しかし、待てよ。おれ、今この家に泥棒に入ろうとしていた。しかし、UFOからの放送を聞いてやめた。これって、偽善者ってぇことになるのかな……。おれ、泥棒を生き甲斐として今までやってきた。その心を裏切ってわざと善人を演じようとしている。うわっ、これ完全に偽善だぁ。どうしよう。どうしよう。死にたくない……。偽善者にならないためには、最初の信念を貫いてこの家に忍びこまなきゃなきゃならない。それは確かだ。え〜い、悩んでいてもしょうがない。入っちまえ! ……入ったぞ。これで偽善者にはならずに済んだ。さて、どうするかな。人のものを盗んだら悪人になっちまうし、かと言って盗まなきゃ偽善者になっちまう。あぁ、どっちにしろおれは死ぬのか? 嫌だ! 死にたくない〜ッ!」 「うるさいわね。アンタ誰よ」 「うわっ、びっくりした。……なんだ、人がいたのか。女だ」 「なにブツブツ言ってるのよ。アンタ泥棒?」 「そうだ。おれは泥棒……あぁ、人に見つかっちまった。もうダメだ。おれは人の家に黙って忍び込んだ。不法侵入だ。悪人だ。消される〜」 「そんなこといいわよ」 「へ?」 「アタシが許可するって言ってるの。そうすれば不法侵入にはならないでしょ。いいからこっちに来て」女は泥棒をベットへと導いた。泥棒にはわけが分からなかったが、断る理由は何もなかった。女は若く、美しかったのだ。 「おれを許してくれたばかりか、こんなことまで……。あなたは女神のような人だ! とにかくこれで死なずにすみそうだ。ありがとう」  ことが終わると、泥棒は女に泣きながら感謝の意を伝えた。しかし、女はどこからか拳銃を取り出すと、無言のまま男の胸めがけて発砲した。  よける間もなく、泥棒はその場に崩れ落ちた。「な……何をする」 「アタシ、悪人は許さないの」 「こ、こんなことをして……お前もどうせ12時間後に死ぬんだぞ」 「アタシは死なないわ」 「……そんなことあるものか。……こ、この偽善者め……!」そう言い残すと泥棒は息絶えた。

 12時間後、宇宙人の宣告通り地球上のすべての悪人と偽善者が一掃された。  しかし、あの女は生き残った。女はホッとして呟いた。 「どうやらうまくいったようね。アタシのような偽善者は絶対に消されると思ったけど、頭をひねった甲斐があったわ。さぁ、あと十ヶ月の間に何とか次の方法を考えなくちゃ」  女は偽善的な笑みを浮かべると、やさしく自分の腹をなでた。  そこにはまだ、悪人でも偽善者でもない生命が……。




評価

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作者からひとこと

 この別バージョンは、元バージョン『偽善の日』の解答編ともいえます。これを書いた時(昨年)は、この方法は女性にしか使えないと思っていたのですが、今や男性でも可能……というのが恐ろしいですね。  他にも何か生き残る方法はあるでしょうか? (1999/4/6)

初出

  • 「G-ML」第1号・第2号(1998年7月2日号・8月3日号)

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