超極秘任務

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超極秘任務   玉生洋一

「いつまでもこうしていたい」 「あたしも……」  おれたちは長い口づけを交わした。愛し合っているのだから当たり前だ。  だが、当たり前でない状況がここにはあった。 「ハッ」  人の気配を感じたおれたちは、瞬時に空高く飛び上がると、木の上に身を隠した。  やって来たのは下忍の伝令だった。首領のお呼びだ。  おれと彼女 ─ おりょうは忍者なのだ。忍び同士の恋は厳禁。だからといって里を抜けたりしたら命はない。このまま隠れて会うしか選ぶ道はないのである。  おれたちは任務を受けるために、別々に首領の館へと向かった。

「途中まで一緒に行こう」  それぞれ任務を聞いたおれたちは、忍びの里を一緒に出発した。  おれは興奮していた。今までにない超重要任務だ。なんとしてもやりとげなければいけない。  かたや、おりょうはずっと口をつぐんだままだった。緊張しているのだろう。おりょうの方もかなり重要な任務を受けたとみえる。任務は自分以外の人間に漏らしてはいけないことになっているので、尋ねるわけにはいかないが。 「うまくいくか心配してるのか? 安心しろ! お前の腕だったら大丈夫だって」 「うん……」おりょうは心ここにあらずといった感じだ。  その時、おれたちの目の前に突然、敵の忍者が現れた。  ジャキーン!  襲いかかってきた剣先を、自分の刀で受け止める。感触からして、実力はさほどでもなさそうだ。数は二人。おれはそのうちの一人を軽く斬り捨てた。 「おりょう! 弱い相手だからって油断するなよ!」  振り返ると、丁度一つの首が宙に舞ったのが見えた。おりょうだった。

 どれだけ泣いたか分からない。  たった今作ったばかりのおりょうの墓の前で、おれは後悔と悲しみを相手に格闘を続けていた。  おりょうをこんな形で失うなんて……! なぜ早く加勢してやらなかったんだろう!!  しかし、おりょうがやられるほどの相手ではなかったはずだが……。敵は二人とも、まるで歯ごたえがなかったのだ。  任務の中で死を迎えるならまだしも、雑魚を相手にこんな無意味な死に方をするとは! おりょう……。さぞかし無念だったろう……!!  おれは涙を拭うと立ち上がった。おりょうのためにも、おれだけでも任務を果たしてやる!  決意を胸に、おれはおりょうの墓を後にした。

 任務は無事成功した。敵国の重要人物の暗殺。  大仕事を終えたにも関わらず、おれの胸には喪失感しかなかった。  おれはその隙間を少しでも埋めようと、里に戻る途中でまじない師の洞窟に立ち寄った。 「せめてもの供養に、おりょうがやるはずだった任務を全うさせてやりたい」  おりょうの任務はおそらく、おれの任務に匹敵するほどの重要なものだったのだろう。それだけに、やり残したまま死んだのではあまりにも無念……おれはそう考えたのだ。 「このまま里に帰っても、首領はおりょうの任務が何だったのか教えてくれはしないだろう。おばば。何かいい方法はないだろうか」  まじない師の老婆はゆっくりと頷くと、壺に入った丸薬を取り出して言った。 「これを飲めば、お前の体が代わりにおりょうの任務を遂行することじゃろう」 「ありがたい!」おれは即座に丸薬を飲み干した。たちまち全身の自由がきかなくなる。 (さぁ、おりょう! 心おきなく任務を果たしてくれ!)  おれの体はしばらくの間、静かに立ちつくしたままだったが、やがて、機械的な声が自然と口からこぼれた。 「お命頂戴いたす」  言い終わらないうちに、おれの右腕は傍の太刀を引き抜き、自らの喉元へと勢いよく突き立てていた。  絶命の瞬間、おれはすべてを理解した。おりょうの死に意味はあったのだ。他ならぬおれが、それを無意味なものにしてしまうとは……。  超極秘任務を終えた者の抹殺。それがおりょうの受けた指令だったのだ。




評価

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作者からひとこと

 この世に生を受ける時は誰しも平等と言えるかもしれませんが、死を迎えるときは明らかに不平等です。「死ねば無に帰るのだからすべての死は無意味」と考えれば、平等になるのかもしれませんが。ひとつだけはっきりしているのは……首が飛ぶような死に方はやっぱりイヤです。 (1999/8/21)

初出

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