恋のジョージおじさん/「歌い踊る」編

#include2(SS/戻り先,,none) ショートショート>恋のショートショート>恋のジョージおじさん ※この作品は『恋のジョージおじさん』の別バージョンです。

恋のジョージおじさん 「歌い踊る」編   玉生洋一

(前略)

●前半部の変更:デートの場所をレストランではなく高級カジノ(ジョ)と競馬場(トム)にする。チマチマと賭けては負け続けるトム。大勝負をしては勝ち続けるジョージ。

 目覚めた時、ベッドサイドにはジョージとトムがいた。 「ここは……?」「気がついたんだね。良かった」「ジョージ……おじさん!」  綾子はたまらず、おじさんの胸に飛び込んだ。待ち望んでいたぬくもりを感じながら、綾子は泣き続けた。おじさんはやさしく綾子の頭をなでる。 「トムが……、トムがあたしのことを……」 「……許してくれとは言わない。どんな償いでもするよ」 「おじさんがそんなことを言う必要はないわ。償いをするべきなのはあなたの方よ!」トムをきっと睨み付ける綾子。オロオロとうろたえるトム。 「(再びジョージに向き直って)うふふ……。おじさんはやっぱりトムとは違ってやさしいのね。……今はっきりと分かったわ。わたしにはやっぱりあなたしかいない。ジョージおじさん、お願い。わたしと結婚して!」「……それはできない」「どうして?」 「それは……私がジョージではないからだよ」そう言うと、男は綾子に鏡を手渡した。   それを覗き込んだ綾子はショックのあまり失神しそうになった。そこには40代の自分の顔があったのだ。 「驚くのも無理はない。君は20年の間、意識を失っていたんだ。……私はトムだよ。ここにいるのは私の息子だ」 「そんな……! じゃ、ジョージは? ジョージおじさんはどこ?」 「ここにおるよ……」ヨボヨボのじいさんが返事をする。数人の看護婦や医者に混ざってずっと側にいたのだが、存在感はなく、気づかなかったのだ。  それが66才になったジョージだった。中途半端に禿げ上がった頭。すっかり腰も曲がり痩せこけたその姿からは、かつての広い肩幅、厚い胸板を想像することすらできない。 「20年たった今、君の気持ちを再度確認したい。おれとオヤジとどちらを取るんだ?」  ジョージとトムを見比べて複雑な表情をする綾子。ジョージが手にしている『老人用紙オムツ』を見るまでもなく、ほどなくして綾子はトムの胸に飛び込む。 「やっぱりあなたが好き!」二人は固く抱き合う。ハッピーエンド……と思いきや、トムは喜ぶべき状況にニコリともしない。  代わりに側にいた息子が躍り上がる。「ヤッホッホゥ! おれの勝ちだ!」 「???」唖然としている綾子に向かって息子は言う。 「おれたちはお前のことで言い争った挙げ句、お前の真の気持ちがどちらにあるかを賭けたのさ。20年後なんて全部ウソ。おれはトム、そこにいるのはうちの爺さんさ」 「じゃぁ……」綾子は抱き合っている相手から飛び退く。「そう。私がジョージだ。お前の気持ちがいかにいい加減かがよく分かったよ……」ジョージは肩を落としてそのまま部屋から出ていく。 「やったぁ! 賭事で初めてオヤジに勝った!」トムも歌い踊りながらその後に続く。  病室には綾子と垂れ流しの爺さんだけが残る。




評価

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作者からひとこと

 男には女よりも大切な物がある……。 (1999/11/11)

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