恋の絵師

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恋の絵師   玉生洋一

「さあ、私を描いて! うまく描いてくれた方と結婚するわ!」

 姫は目の前にいる2人の絵描きに向かって言った。  2人は懸命に筆を動かした。だが、絵はなかなか完成しない。 「どうしたの? そう。私が美しすぎるから緊張して描けないのね! いいわ。時間はたっぷりあげるから」

 数時間後。2人の絵はやっとのことで完成した。  しかし、どちらの絵もまるで子供が描いたかのようにヘタクソである。 「ふふふ。2人とも緊張したのね。2人の緊張をといてあげるためには、どうしたらいいかしら?」姫は側にいた爺やに相談した。 「ワタシめに名案があります」爺は何やら2人の絵描きに耳打ちした。すると、2人は猛然と筆を動かし始めた。

 絵はたちまち出来上がった。 「まぁ、すてき!」  さきほどとはうってかわった素晴らしい2枚の肖像画が、姫の前に並べられた。  それを見て目を丸くした婆やが、爺にこっそりと聞く。「アンタ一体なんて耳打ちしたの?」 「なぁに、……『お互いのサインを交換しろ』って言っただけじゃよ」

 2人の絵描きは滝のような汗を流しながら、ただ審判の時を待っていた。  この世のものとも思えない顔の姫が絵を選んでいる前で、懸命に吐き気をこらえながら。




評価

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作者からひとこと

 わざと下手になるように力を注ぐというのはなかなか難しいもんです。天然ボケの芸人には誰も勝てないのと一緒ですね。  結局、「絵師」で続けてしまいました。

(2000/7/27)

初出

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