拾った携帯 にそのファイルは見つかりません

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拾った携帯   玉生洋一

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 バス停で携帯電話を拾った。  交番に届けようと思ってはいたのだが、ついなんとなく家まで持って帰ってきてしまった。  まぁ、持ち主が気づけば電話をかけてくるだろうし、そうしたら届けに行くなり、取りに来てもらうなりすればいいだろう。  そんなことを考えていると、さっそく着信ベルが鳴った。 「はい、もしもし」 「あの、この間のことなんだけど……」  女の声だ。どうやら持ち主ではないらしい。「いや、私は……」 「いいの。何も言わないで。……私が悪かったの。ごめんなさい。なんでもするわ。許してくれる?」 「いや、だから私は……」状況を説明したいのだが、うまく言葉が出ない。 「許してくれるの? くれないの!?」  女の迫力に押されて、私はついポロリと言ってしまった。「ゆ、許すよ」 「ありがとう!! 約束よ! もうどうしようかと思ってたの。じゃあ、またね!」  女の晴れやかな声を残して電話は切れた。 「やれやれ。なんだろう? 喧嘩かな?」  電話はまだまだかかってきた。 「何も言わずにおれを許してくれ」 「悪かったです。許して下さい……」 「ユルシテ〜!」  面倒だったので、おれは全員に「許す」と答えて電話を切った。  何だ? この携帯の持ち主は一体、よってたかってどんなひどい仕打ちをされたんだろう?

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   *   *

 持ち主からの連絡はなにもないまま、数日が過ぎたある日のこと。  運の悪いことに、おれはバスの中で財布をすられてしまった。  人のものを盗るなんて! おれは激高した。  気のせいか、最近町が物騒になっている気がする。こういう犯罪者どもには、罪の意識はないのだろうか?  おれが怒りに体を震わせていると、拾った携帯のベルが鳴った。 「またやってしまったんです。つい出来心で……。お許し下さいますよね?」 「許す許す」  おれはいつものようになげやりに言うと電話を切った。  今は何もかもが鬱陶しかった。着信ベルの『賛美歌』さえも……。




評価

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作者からひとこと

 最近自転車を盗まれました。犯人はすみやかにもとの場所に返すように! ただ懺悔して許しを請うよりも、償うことの方が遙かに大事だと思います。  携帯の持ち主の○○さんが誰か分からない人は、十字を切って考えましょう。  ○○さんは、自分の番号を覚えておらず、仕事熱心だったので、携帯の番号を教えあうような「友達」もいなかったんでしょうねぇ……。 (1999/7/19)

 以前に描いた漫画の一部を挿絵風に掲載しました。 (2006/1)

初出

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