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 *転人生   玉生洋一 [#x51aa4f5]
 
 「もう、死んじまおうかな……」
 
  深夜営業の風呂屋。カズオは仮眠室でぐったりと横になりながらぽつりとつぶやいた。
  確かにカズオは恵まれない人生を送ってきた。女にももてず、金もない。将来の夢もなければ、毎日生きていて特に楽しいこともない。
  特に切羽詰まった不幸があるわけではなかったが、それもまた問題だった。
  自分の行く末にはつまらない未来しか見えない。つまり、人生に張り合いがないのだ。
  希望のない人生を生きることにつくづく嫌気がさしてしまった……。
 
 「では、死ぬ前に別の人生を生きてみたらどうじゃ?」
  いつしかうたた寝を始めたカズオの夢の中に、眩い光と共に神様が現れて言った。
 「お前が目覚めて最初に触れた人間と、心だけを交換してやろう。どんな人間にも1度だけ転人生できる権利があるのじゃ。別の人間になれれば、今の人生にはない新しい世界が開けるじゃろう……」
 
  はっと目を覚ましたカズオは、ぼんやりと今見た夢のことを考えていた。確かに、他の誰になっても今の状況よりはマシだ。新たな困難もあるかもしれないが、それすらも新鮮に感じることができる。少なくとも当分は死のうなどとは考えないだろう。
  そう考えると、カズオはなんだか胸がわくわくしてくるのを感じた。こんな気持ちになったのは久しぶりだ。夢の中の神様の言葉が本当かどうかは分からない。だが、信じてみるのも面白いじゃないか。さて、誰と人生を交換しようか。
  そうつぶやくと、カズオは勢いよく立ち上がった。
 
 「わッ!!」
 
  次の瞬間、カズオは床の上をごろごろと勢いよく転がった。薄暗い仮眠室で、誰かと衝突してしまったのだ。
 「え……? タクヤ……!?」
  カズオが状況を飲み込んだ時にはすでに遅かった。カズオの手はしっかりとタクヤの肌に触れていたのだ。
 
    *   *
 
 「はぁ〜。もう、死んじまおうかな……」
 
  カズオは鏡を見ながら肩を落とした。
  あの夢が本当だったのかどうかは、もはやどうでもいいことだ。タクヤもカズオと同じ風呂上がりだったため、共に裸にタオル一枚だけという姿。しかも、2人で天地が分からないほど床を転がったときている。神様の言葉の真偽は分からなくなってしまったのだ。
  はっきりしているのは、カズオに与えられた権利がパーになったということだ。
 「よりによって、お前も来てるとは……」
 
  双子の弟の肩を叩きながら、カズオはため息を繰り返すのだった。
 
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 **作者からひとこと [#b05f7ad5]
 
 ▼もともとは殺人計画がらみの話だったのですが、選考担当者に「長過ぎる」と文句を言われたため、思い切って短縮・単純化しました。
 ▼元ネタはいわずと知れた↓この作品です……。
 http://tbook.net/wiki/index.php?%C5%BE%B9%BB%C0%B8
 
 (2006/9)
 
 
 **初出 [#da068acf]
 
 -「[[ショートショート・メールマガジン]]」第100号(2006年1月17日号)
 -ウェブ公開(2006/9/29)
 
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